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長崎地方裁判所 昭和43年(ワ)171号 判決

原告(選定当事者) 陶山一盛

〈ほか五名〉

右訴訟代理人弁護士 黒沢平八郎

被告 長崎県西彼杵郡伊王島町

右代表者町長 荒木辰一

右指定代理人 元谷幸夫

〈ほか五名〉

主文

1  被告は原告および別紙選定者目録記載の選定者らに対し、別表1認容債権表記載の各金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はすべて被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告および選定者らに対し、別表2申立債権表記載の各金員およびこれに対する昭和四三年四月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  被告敗訴の場合、担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

別紙(一)「全事件に共通の当事者の主張」と別紙(二)「本件についての主張の補足」に記載のとおり。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  当事者の地位、原告および選定者ら(以下単に原告らという)の受給している俸給、正規の勤務時間、および原告らが行った時間外勤務の内容と時間数、右時間外勤務時間数の算定については、別紙(三)の1、2、3に記載のとおり当事者間に争いはない。

二  原告らの勤務する伊王島小学校の勤務時間の割振りのうち、昭和四二年度(ただし、月曜日から金曜日まで)については、午前八時三〇分から午後五時五分とされていたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、同四一年度については、昭和四〇年四月一日から同四一年一〇月一五日までが午前八時三五分から午後四時五〇分、一六日以降が午前八時三〇分から午後五時五分までと割振りされていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

三  そこで、原告らの行った各時間外勤務の内容が原告ら教職員の職務に属するか否か、右各勤務が所属学校長の指示によるものであったか否か、および右勤務に対する被告の主張につき判断する。

1  原告番号(別表1に記載の原告および選定者番号をいう)2ないし5の原告らが参加した各修学旅行については、別紙(五)の3の(イ)に記載する理由から、右原告らの職務に属し、かつ、校長の指示によるものであったことが認められる。ところで、被告は、被告の主張の補足2に記載のとおり、右原告らの勤務時間の割振りを変更しているので、右勤務はいずれも時間外勤務に当らないと主張するが、別紙(五)の3の(ロ)に記載する理由から右主張は採用できない。

2  同番号4木下アキノの参加した島外見学についても、≪証拠省略≫によれば、これは修学旅行と同様の性格を有するものと認められる(宿泊するか日帰りするかの相違のみ)から、右同様の理由により当然教職員の職務の範囲に属し、かつ、校長の指示によるものと推認できるところ、右島外見学が校長の指示によらなかったと認めるに足る特段の証拠もないので、右原告は主張の時間外勤務を行ったものと認める。

3  原告番号1、2、6の原告らが参加した体育行事(小体連)については、≪証拠省略≫によれば、右小体連は、西彼杵郡第二支部教育研究会において、立案、提出され、同支部体育主任会において、更に検討が加えられ、同支部学校代表者会において、最終的に決定されたもので、右第二支部教育研究会が主催し、昭和四一年一〇月三〇日(日曜日)高島小学校において開催され、右支部所属の各小学校の五年生、六年生の児童のうちから代表選手を数名選出し、右各学校間の対抗競技大会の形式を採用したこと、原告らの勤務校伊王島小学校からは、五、六年生の児童のうちから代表選手数名と、右選手を応援する五、六年生の児童、および引率者としてこれらの代表選手等の父兄、P・T・A役員、五、六年生担当教諭七名他数名の教諭が参加したこと、しかして、右引率者の会場における行動としては、父兄およびP・T・A役員は殆んど代表選手の応援にあたり、五、六年生担当教諭が児童の見学指導、出場選手の競技指導、その他本大会運営の諸係を担当したことが認められ、これに反する証拠はない。

右認定事実によれば、右小体連は学習指導要領にいう特別教育活動としてのクラブ活動と密接不可分の関係にあると解せられるから、右勤務は原告ら教職員の職務に属すると認めるのが相当である。

ところで、≪証拠省略≫によれば、大会の数日前から代日休暇の申出が校長に対してなされていたが、右要求は受入れられず、更に大会前日には教頭に対しても代日休暇、それが認められないときは、時間外勤務手当の支給が要求されたが、右各要求も受け入れられなかったため、右大会に参加した各教職員は、結局、昭和四一年一〇月二六日の職員朝会時に校長からなされた「小体連実施当日は、P・T・A役員や保護者も多数同行するので、この方々に児童の監視をしてもらうから、教職員が参加するのは自主参加によるものである。」という発言によった自主参加のごとき形をとったものと、一応認めることができる。

しかし、前記認定事実によれば、右大会の開催は、最終的には各学校の代表者会において決定されたものであり、従って、右決定には少なくとも校長の黙示の命令があったとみるのが相当であり、前記認定のとおり右大会の性質からすれば、原告ら教職員が右開催をP・T・Aや父兄にのみ委ねることで、その責めを果せるとは到底考えられず、右大会は、当然に引率教職員の必要性が予想されるものである。

以上によれば、右原告らの小体連への参加は勤務校である伊王島小学校が右小体連に参加することを決定した段階において、前記校長の黙示の命令に事実上拘束されてなされたとみるべきで、右勤務に対しては時間外勤務手当を支払うべきである。

四  ところで、被告は、仮に原告らの前記各勤務が時間外勤務に当るとしても、原告ら教職員には時間外勤務手当を請求しないという事実たる慣習が存在したと主張するが、この点についての当裁判所の判断は別紙(四)の2記載のとおりであり、右主張は採用できない。

五  以上によれば、被告の主張はすべて理由がないことゝなり、原告らは本訴請求にかゝる時間外勤務手当請求権を有するといわねばならない。そして、別紙(三)の1および同(四)の1に記載するところによれば、学校教育法五条により、その経費の負担者である被告において、右時間外勤務手当を支払うべき義務がある。そこで、時間外勤務手当額について検討する。

前記各事実によれば、原告らはそれぞれ別表3時間外勤務手当明細表(以下単に明細表という)時間外勤務時間欄各記載の時間外勤務を行ったことが認められる。そして、原告らが当時受給していた俸給額が同表本俸欄各記載のとおりであることは前記のとおり当事者間に争いがない。そうすれば、別紙(三)の4記載のとおり、右俸給額に基づき法令により算出(右法令による算出方法については、被告は明らかに争わない。)した時間外勤務手当の一時間当りの額および時間外勤務手当額がそれぞれ明細表一時間当りの単価欄および時間外勤務手当欄各記載の額となる。してみると、原告らの時間外勤務手当に関する請求部分はまず正当である。

六  次に附加金の請求について判断するに、別紙(四)の3の(イ)記載のとおり、被告は原告に対し、明細表附加金欄各記載の附加金を支払う義務があると解する。

七  最後に遅延損害金の請求について判断するに、時間外勤務手当については、請求のあったとき(従って、本件では訴状送達の日の翌日)から遅延損害金を請求しうることは争いないが、附加金については、従来より説が分れているところ、当裁判所は別紙(四)の3の(ロ)記載のとおり、裁判所がその支払いを命じたとき(従って、判決が確定した日の翌日)から遅延損害金を請求しうると解するので、この点に関する原告らの請求は一部失当である。

八  よって、原告らの本訴請求を主文1項記載の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却するが、本件については仮執行の宣言は未だ必要と認められないので、これを付さないこととし、民訴法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 権藤義臣 裁判官 香山高秀 最上侃二)

〈以下省略〉

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